ラブパッション
気になる人
長瀬さんのお誘いは、その日の終業後、映画の招待券を返して断った。
部屋の引っ越し荷物の片付けを理由にして謝ると、長瀬さんはとても残念そうに、やや歪んだ笑みを浮かべた。


『落ち着いた頃、また誘うよ』と言われて、私は返事に困って口ごもってしまった。
長瀬さんには、『彼がいる』と言っても、断わる理由にならない。
だから、なんて言えばいいか考えている間に、『お疲れ様』と肩を叩かれてしまった。


なんだか胸がモヤモヤしたまま、迎えた週末。
東京暮らしと、慣れない仕事。
新しく始まることばかりで、想像以上に疲れていた。


上京して初めて、一日のんびりゴロゴロして過ごした土曜日。
窮屈に縮こまっていた羽を伸ばせたおかげで、心身ともに少し潤ったような気がした。
そうして迎えた翌、日曜日。
朝から春らしいいい天気で、部屋にこもって過ごすのがもったいないと思った。
お昼ご飯を食べた後、出かけることにした。


いつも通勤電車で素通りする駅に、大きなショッピングモールがあることは知っている。
仕事帰りに寄り道する余裕はなく、休日を使ってゆっくり行ってみたいな、と思っていた。


そういえば、読みたい本があったんだ。
ショッピングモールに本屋さんがあったら、探してみようかな。
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