ラブパッション
「おっと、危ない」


周防さんがその肩を支える。


「係長、相当酔ってますね。今日はお帰りになった方がよいのでは?」


彼は係長にそう言いながら、私に肩越しの視線を向けた。
目が合うと、唇を『行け』という形に動かす。


「あ……」


助けてくれた。
それを感じて、私は急いで立ち上がった。
今度は周防さんに向かってなにか喚いている係長を横目に、バタバタとお座敷から走り出た。


係長のセクハラから解放されても、まだドキドキと心臓が大きな拍動を続けている。
そのまま店の外の通りに飛び出した。
春の夜風に身を晒し、熱を冷ましながら、気持ちが鎮まるのを待つ。


あんなセクハラ、生まれて初めて受けた。
会社で定期的に行われるコンプラ研修なんかでは、毅然と対処しろ、なんて簡単に言ってくれるけど、実際そういう目に遭ったら、身が竦むばかりで声が出せない。
周防さんが助けてくれなかったら……と思うと、ゾッとして身体が震える。


でも、私に気付いて、助けてくれた。
それが周防さんだから嬉しい。
今はそのことだけ考えようと、気持ちを切り替えた。
< 74 / 250 >

この作品をシェア

pagetop