ラブパッション
私は、ドキッと跳ねる胸元を、無意識にぎゅっと握りしめた。
心臓が騒ぎ出すのを必死に抑え、一度唾を飲んでから、勢いよく頭を下げる。


「さっき、ありがとうございました」


周防さんが、「ああ」と短い相槌を打つ。


「西尾係長、普段はあんな人じゃないんだけど……。今日は飲みすぎたのかな。怖かったろ?」


ゆっくり顔を上げると、彼は憂いを帯びた瞳を私に向けている。


「ごめんな、もっと早く助けてやれなくて」


申し訳なさそうに目尻を下げる周防さんに、私は強く首を横に振ってみせた。


「大丈夫です。私もお酒入ってるし、もしかしたら明日になったら忘れてるかも。だから、気にしないようにします」


ちょっとおどけてぎこちなく笑うと、周防さんは目力を解かずに、私をジッと見つめてくる。


「あ、あの……?」

「明日になったら、忘れてる?」


私が言ったことを、自分の口で繰り返し、訊ねてくる。


「大丈夫? 気にしない? 怖くて声も出ないほど、顔、強張らせてたくせに。君はどうして強がるんだ?」


私が軽い調子で言ったせいで、気分を害してしまったのか。
周防さんは、低い声で早口に言い捨てた。


「す、周防さん……?」


厳しい口調に気圧されて、私は怯みながら呼びかけた。
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