ラブパッション
神様の悪戯
二週間前。
倉庫での勤務最終日の夜。
みんなで駅近くの居酒屋に繰り出し、お別れ会をした。
別れ際、作業員のおじさんたちが、『夏帆ちゃん、とにかく笑顔だ、笑顔!』と背を叩いてくれた。
みんなとバラバラになって、一人東京に行く私は堪らなく心細くて、半泣きの笑顔しか作れずにいたら、おばさんたちも最後は豪快に笑い飛ばしてくれた。


『気張らず、普通にしてればいいよ。夏帆ちゃんは素直で優しいし、どこに行ってもきっと可愛がってもらえるから』


親子ほど年が離れていたみんなが、最後まで私を甘やかしてくれた。
でも、東京本社で、今までの調子でのんびりしてていいわけがない。


二十代の若手社員は、星の数ほどいる。
同期に当たる人もいるだろうし、きっとそのみんなが、私よりずっと仕事熱心で能力も高いはず。
未知の世界に一人放り込まれる気分で、やっぱり怖くて堪らない。


倉庫の上司が、緊張しすぎの私の肩に手を置き、苦笑いしながら教えてくれた。


『大丈夫。椎葉さんの配属先にいる主任が、私が本社で課長をしていた頃の新人なんだ。仕事もできるし、優しい男だよ。彼にも連絡しておくから』


上司の部下だっただけで、私にとっては見ず知らずの人。
でも、今はたった一人頼れる『知り合い』のように思え、心の支えにしてしまった。
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