出会いはいつも突然なのです!
「去年から何度言えば分かるんだ!」
怒りを抑えられないのか、男性教師の声は職員室中に響き渡っている。そうこうしているうちに、職員室に残っていた教師たちは次々に教室をあとにしている。
「絡まれたりするのか?」
そんな疑問を抱きながら、鳥居先生の机に辿り着いた俺はプリントを置く。
「ふぅー、重かった」
小さく零し、肩を回す。瞬間、視界に入れないように努力をしていた、怒られている生徒とバッチリと目があった。
「あっ」
瞬間的に目をそらす。
てか、なんで怒られてる人と目が合うんだよ。
そんな俺の思いなど露知らず、怒られていた生徒が声を洩らす。
大きな漆黒な瞳が特徴的だった、と思う。一瞬だったからよくわかんないけど。
焦げ茶色の髪は長く、先にいくにつれて軽くウェーブがかかっていた。
「おい、聞いてるのか!」
男性教師が怒気を強めて咆哮にも似た声をあげる。あまりの大きさに、俺はそちらに目がいく。
鋭い眼光で女子生徒を睨み、怒りを露わにしている男性教師。それに対し、女子生徒は虚ろな目で虚空を眺めている。
「お前は怒られているという自覚があるのか?」
男性教師は机をバンッ、と叩く。
「はいはい。ありますよ」
目をそらさなきゃ。
頭では理解出来ていた。出来ているのだが、本能が目をそらさせてはくれない。
退屈そうな漆黒の瞳は、見ているだけで呑み込まれそうだ。陽光が反射し、光っているようにすら思われる白い肌。俺は名前も知らない、その女子生徒に見蕩れていた。
「お前はいつまでいるんだ!」
男性教師の怒りの矛先が俺に移る。しかし、俺の視線は揺るがない。その女子生徒だけを射抜く。
「お前まで無視するのか! 何組の誰だ!」
この女子生徒に散々無視され続けられたのだろう。俺にまで返事をしてもらえないことに怒り、顔を真っ赤にしている。
「何とか言え!」
それでもなお、何も言わない俺に、男性教師はさらに声を大きくする。
何とか言えって言われても……。
戸惑いながらも俺は、脳裏によぎった言葉を口にする。
女子生徒の方へと周り、彼女の前に立つ。突然の俺の動きに、男性教師は戸惑いを隠せていない様子だ。だが、そんなことは関係ない。
俺は、俺が言いたいことを言う。
「あなたが好きです」