お見合い結婚します―でもしばらくはセックスレスでお願いします!
23.ゆっくり夜を過ごした。ようやくセックスレスが解消した!
(12月第1日曜日)
私は二日酔いにはならなかった。「まあ、グラス1杯のワインで二日酔いはないだろう」と亮さんは言っていた。

今日は二人でのんびり公園を散歩してから、家で過ごした。亮さんがいつも言っているように、今が一番いい時、私にもそう思えた。

「今日の夕食は早めに作ります」といって私は料理を始めた。6時には二人でテーブルに着いていた。

夕食はオムライスにした。大井町のレストランで食べたオムライスがおいしかったので、工夫してみた。亮さんは私の味つけがいいと褒めてくれた。亮さんは休日にはビールを飲まないことにしているみたい。

私が後片付けをしている間に亮さんはコーヒーを入れる準備をする。お湯を沸かして豆を二人分ミルで挽く。テレビを見ながら待っていてくれる。私がソファーに座るとコーヒーを入れ始める。私は黙ってそれを見ている。

「確かに茶道に通じるところがありますね」

2杯分できると1杯を私の前に置く。私はゆっくり一口飲んでみる。

「おいしい」

「よかった。今のこの時間が好きだ。いつも今が一番いい時に思える」

「このまえもそう言っていましたね。これまでもそうだったのですか?」

「もちろん。理奈さんが僕の入れたコーヒーを喜んで飲んでくれていた。そして美味しいと言ってくれた」

「そんなことで一番いい時に思えるんですか?」

「それ以上に何がある?」

「私を抱き締めるとかは、したくなかったのですか?」

「それはあとの楽しみにしておけばいい。その時はそれでベストだった。欲張らないで現状で満足する。そうすると今が一番と思えてくる。いつでもすべてが自分の都合のよいことばかりではないだろう。いつでも良いことと面白くないことがモザイクになっている。そうは思ないか?」

「確かにそうです。すべてうまくいっている時なんかないですよね。そしていつも移り変わっている。うまくいっていなかったことがうまくいき、順調だったことが不調になる。いつも入れ替わっています」

「それでも、きっと今が一番なんだ。そして今日の今は今しかない。昨日の今は昨日しかなかった」

「確かに今日の今は今しかないですね」

「それに、幸せなんて心の持ちようだ。幸せと思うと幸せなんだ。不満があって不幸だと思えば不幸なんだ。人間なんて欲望のかたまりで、ひとつ不満が解消するとまた別の不満が生まれてくる。人間の欲望には限りがない」

「私はずっと不幸だと思っていました。いつも何か不満があったのかもしれません」

「はたから見ると随分幸せそうに見えるけどね」

「そんなものなんですね」

「今は?」

「亮さんが私の不満を取り除いてくれました」

「それで幸せを感じている? 新たな不満が生まれていない?」

「不満じゃないですけど、してほしいことができてきました」

「ええ、何?」

「へへ……今晩も可愛がってほしいです」

「もちろん」

私が抱きつくと強く抱き締めてくれる。

「今夜は私の部屋で寝てください」

「お布団を持っていく?」

「私のお布団で一緒に寝てください」

「そうしよう」

今日は私が先にお風呂に入った。それから部屋で寝る準備をした。今日は色っぽいネグリジェにした。下着はつけなかった。

明かりを暗くして待っていると亮さんがドアをノックする。「どうぞ」と答える。

亮さんが入ってきた。いつもと様子が違うので驚いているみたい。私は布団の上で正座して頭を下げる。

「不束者ですがよろしくお願いします」

「どうしたの、改まって、新妻の初夜の挨拶みたいだね」

「入籍して初めてですから、言ってみたくなっただけです」

「こちらこそよろしくお願いします」

亮さんは我慢できなくなったみたいで私を抱き寄せた。私も抱き付く。亮さんが私を撫で始める。私は身体の力が抜けて来てうっとりとなすがままになっている。

やはり痛かった。掴まれている右手を強く握ってそれを伝える。今日はほどほどに身体を離してくれた。でも私は亮さんに抱きついたまま離れない。

それで亮さんは私を後ろに向かせて後ろから抱き締める。亮さんは布団の中で面と向かうと照れくさいらしい。

「辛そうなので、やはり最後までできなかった」

「ごめんなさい。我慢したのに」

「初めてだと普通にできるようになるまで1週間くらいはかかると同期の友達が言っていた」

「そんなこと聞いたのですか?」

「いや、自慢げに話していたから」

「その意味が僕にもようやく分かった。可愛くて愛しくて、可哀そうで無理になんてとてもできなかったんだと」

「私は初めてではありません」

「初めてと同じだ。その証拠に未だにうまくできていない。それに」

「それに?」

「シーツに出血の跡があった」

「そうなんですか?」

「想像するに、理奈さんが話してくれたその時のことだけど、女の子が嫌がっている時に力ずくでしようとしてもできるものじゃないと思う。せいぜい入口までで、彼は興奮してもらしてしまったのだと思う」

「そう言われればそうかもしれません。あの時とは痛みが違います」

「だから、理奈さんはバージンと同じだ。直感的に分かる。間違いない」

「嬉しいような、恥ずかしいような複雑な気持ちです」

「僕は嬉しい。自分が初めての男だと思うとそれは嬉しい」

「でも1週間もかかるのですか?」

「分からないけど、同期はそれくらいかかったそうだ」

「我慢して頑張ります」

「頑張らなくてもいい、我慢もしなくていい、自然でいいから。僕は気が長いほうだから、1か月かかっても良いと思っている。ここまで来るのにさえ随分時間がかったから」

「分かりました」

「少しずつできるようになればいい。その方が長く楽しめる」

「楽しむんですか?」

「少しずつ絆が強くなっていくのを楽しみたい。こんな素敵で楽しいことはほかにないと思わないか?」

「ちょっと苦痛です」

「そのうち絶対に良くなるから。でも同期が注意するように言っていた」

「なんて?」

「良さを覚えさせると後が大変だと」

「どういう意味ですか?」

「言ったとおりだけど」

「そうなればいいんですけど」

「楽しみにしていればいいよ」

亮さんが私を後ろから強く抱きしめる。私は腕を掴んでいる。

「目覚ましをかけるのを忘れていました」

私は枕元の目覚ましをセットしてまたもとのように背を向けた。後ろから抱き締められる。

「こうして抱いてもらうとぐっすり眠れます。おやすみなさい」

「おやすみ」

長くて短い週末が終わった。
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