おてんば姫の手なずけ方~侯爵の手中にはまりました~
「ねぇ?私のこと抱いてみたいと思わない?
私、自慢じゃないけどスタイルはいいでしょ?
私を貴方の家に連れて帰ってはくれないかしら?」

甘く、まるで囁きかけるように相手に言う。
そのような経験をしたことは今までなく、異性と身体を重ねるということに恐怖はあったものの、この場を切り抜けるにはそうするしかなかった。

意を決してリンネは誘ったのだが、エリックが頷くことはなかった。
「お前は本物の馬鹿だな?
俺がお前のようなちびに興味が湧くとでも思ったのか?
第一、お前のようにファーストネームさえ名乗らないどこの馬の骨かわからない女を抱くと思ったか?

おい、この女を騎士団の詰所に連れていけ」

リンネのもくろみは外れ、再び連行されそうになり思いっきり拒絶したが、屈強に鍛え上げられた男の力には敵わなかった。
両方から腕を捕まれ、無理矢理護衛のひとりが乗っていた馬に乗せられた。

「俺は母上が心配だから、先に行く。
こいつとそこにくたばってるやつらを詰所に連れていったら合流するように」

それだけ言い残すと、エリックはアッサム地域を出ていった。
残った護衛は見事な手さばきでリンネが倒した男達を縛り上げると、リンネが乗っている馬とは別の馬に乗せた。

馬は動き出してしまい、リンネは自分が乗っていた馬はここに置いていかれるのか心配になったが、ひとりの護衛が器用に自分の馬とリンネの馬2頭を操りながらついてくるのが見え、いくらか安心した。

「エリックの馬鹿!!」

これだけは絶対に言わなければならないと、リンネはアッサム地域を出る直前に大きな声で叫んだ。
リンネを乗せていた護衛は「大きな声を出すな」と戒めたのだが、あんまり意味はなかったようでその後も叫び続けていた。抵抗もむなしく、リンネは騎士団の元へ連行されてしまった。
リンネと強盗の男達を引き渡すとすぐにエリックの護衛は去っていったので、リンネが王女であるということは気づかれなかった。

「どうしてリンネ様が外からお戻りになるのですか?
しかも、、、まるで罪人かのように連れてこられて」

騎士団のひとりはこの状況をどのように対処すればいいのかわからず、うろたえていた。
リンネはこの状況を利用しようと、「どうにか見逃して?」と言った。

「しかし……
あっ、やはり……」

煮え切らないような態度にリンネもどうすればいいのかと考えていたとき、後ろから今一番聞きたくない声が聞こえてきた。

「後で執務室に来るように」

「はい……承知いたしました……」

振り向かなくても誰の声かはわかっていた。リンネは覚悟を決め、後で執務室へ行くことを約束した。

「強盗たちはこちらで処理いたしますので、どうぞ国王様の元へ…」

騎士団もここにリンネをずっと引き留めてはいけないと思ったので、執務室に行くよう促すことしかできなかった。

「わかったわ…
それじゃあこの人達のことよろしくね…」

若干顔をひきつりながらリンネは騎士団の詰所を出ていった。
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