おてんば姫の手なずけ方~侯爵の手中にはまりました~
一方でリンネはエリックの先ほどの行動に少しだけ驚きを隠せなかった。
クリスとある程度距離が離れると、エリックは馬の速度を緩めた。

「ねえ、クリスは私の弟なんだからあんな態度をとらなくてもよかったんじゃないかしら?
クリスは王宮の中で誰よりも私のことを理解してくれているし、私にとってかけがえのない大切な人なの。どうしてクリスと一緒に視察してはいけないの?
エリック様だって考えていることは私やクリスと同じでしょ。それならば一緒に視察したほうが新しい考えが思い浮かぶと思うんだけど」

ただ、自分の思っていることを素直に言ったつもりだったのに、その言葉を聞いたエリックの態度は少し前の、リンネにやさしい笑みを浮かべていた時とはまったく変わっていた。
急に馬を止めて振り返ったエリックの顔は、まるでリンネが政策に関わろうとしているのを許してくれない国王が怒っているときの様な顔つきだった。

「いい加減にしろ。
俺はクリスのことはよく思っていない。あいつは姉であるリンネに対して、敬愛の念以外を抱いている。お前は常に同じ空間で生活しているから気づいていないかもしれないが、俺はずっと前から気付いていた。
あいつが俺に向ける視線はいつも嫉妬に狂ったようなものだからな。

俺がお前の代わりに議会で発言しているのをあいつは許していない。だから俺よりも先に皇太子という地位と権限を使って先に行動に移したんだろう」

「違うわ!クリスはそんなこと思っているはずがない!
いつも議会が終わった後は、今日はどんなことを議論したのか嬉しそうに話してくれるの。
いつか自分で治める国を今からしっかりと考えているいい子だわ!」

「俺の前でそれ以上あいつの話をするな!
どうせその姿は偽の姿に違いない。あいつはいつも議会では船をこいでいるのをどうにかして我慢しているようなクズだ!
これ以上俺の前でほかの男の話をしてみろ、今度はこれくらいじゃ済まさないからな」

リンネはここまで至近距離で誰かに怒られたことがなかったので、少しだけ涙目になってしまった。
その姿を見たエリックは小さな声で「すまなかった、言い過ぎた。少し馬を歩かせて俺もリンネも気を落ち着かせよう」と言った。

エリックは自分の腰にリンネが手をまわしたことを確認すると、ゆっくりと馬を歩かせ始めた。

5分ほど馬を歩かせ、ふたりの気持ちもやっと落ち着いてきたころ、急に馬の前を猫が横切ろうとした。そのまま横切るだけならば馬も何の問題もなかったのだろうけど、その猫をあろうことか二人が乗っている馬に向かって威嚇をしたのだった。
急に威嚇をされた馬は驚き嘶いた後、前足を高く上げると急に走り出した。

エリックは一生懸命、馬を落ち着かせようと手綱を握っていたが、馬は落ち着くどころかどんどん走る速度を上げていった。
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