おてんば姫の手なずけ方~侯爵の手中にはまりました~
晩餐中は目上の人から声をかけられたときのみしゃべることが許されているので、普段はナイフやフォークが食器に当たる音が少しするだけだった。

「リンネ、レース編みは順調に進んでいるか?」

急に自分に話をふられて驚きながらも、リンネは口元をナプキンで軽く拭いたあとに答えた。

「僭越ながら、お父様にお願いがございます。
私に、レース編みの先生をつけてはいただけないでしょうか?
大変、申し上げにくいのですがレース編みが全くといっていいほどできなくて…
今日もひとりで頑張ってみたのですが、全然できなくて」

ひとりで頑張っていたというのは嘘であったが、レース編みを苦手としているのは本当であったので、誰かに教えてほしいというのはリンネの切実な願いだった。
もう少し早くはじめていれば姉達に教わることもできたものの、既に嫁いでいて帰ってくることはほとんどなく、王妃は国王を支えることで手一杯だったので、身近に頼る人がいなかったのである。

「わかった、明日部屋に誰かをよこそう。
その者からレース編みを教わるがよい」

リンネは「ありがとうございます」と感謝を表面上は述べたものの、心の中では「すぐに人が来てしまえば勉強の時間がとれない」と嘆いていた。

それからは誰も声を発することなく、晩餐は終了した。
国王夫妻が最初に部屋を出ていき、リンネもあとに続いて自分の部屋に戻ろうとしていたが、後ろからクリスに声をかけられ振り返った。

「姉上、後でお話ししたいことがあるのですが時間をとってはいただけないでしょうか?」

リンネは「後で部屋にいらっしゃい」とだけ言うと部屋を出ていった。
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