君の匂いを抱いて祈った。―「君が幸せでありますように」―
 茜は、創のその言葉を聞いた途端に、眠りに落ちた。

 それは、幼子が、母親の声を聞いて安心したかのようでもあったのだけれど。


 創はそんな茜の頭を撫でると、さも当然って言う顔をして。茜を背負って立ち上がった。


「……大丈夫なの?創。
 茜背負って、家まで帰れるの?」


「大丈夫だよ。タケ、連絡ありがとうな。
 お前も早く帰れよ」

 
 慣れているから。
 と言わんばかりの表情で、創はそう言った。

 暗に俺についてこないでいいよと言いながら、創は優しく笑うんだ。


 茜と創は、俺より5センチほど背が高い。
 二人の身長差はほとんどないけれど、創は軽々と茜を運べてしまうんだという事実が、俺には悔しかった。


 いつも茜を背負う役割を担えている創が、うらやましかった。




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