君の匂いを抱いて祈った。―「君が幸せでありますように」―

 おれの隣にいる茜の不機嫌モードが一挙に加速したのが、確認しなくても空気で伝わってくる。タケの「あのこがどうかしたの?」と茜に問いかけてる声が、ひどく場違いに響いた。


「………お願い、待って」


 俯いたまま、美羽は言う。ふわふわの長い茶色い髪が、彼女の表情を覆い隠してしまっていた。


 ああ、もう。面倒くさい。なのに、おれには、放っておくという選択肢が、出来ない。


「そう。俺さき帰るわ」


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