君の匂いを抱いて祈った。―「君が幸せでありますように」―

 半ばやけくそ気味におれはその子に問いかける。でもその子はだんまりのまんまだった。


「何も言わないんだったら、おれも帰るよ?」


「やだ!」


 肝心の理由は言わないくせに、『帰る』という部分にだけ反応して、美羽はぱっと顔を上げた。

 その瞳は、切羽詰っていて、なのに、そのくせなぜか、自分がほしいといったものは必ず手に入る。そう信じている、純粋でけれど傲慢な子どもの香りがした。

 マスカラに縁取られた、くりっとした瞳。わざとらしいほど八の字に垂れ下がった、まゆげ。

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