君の匂いを抱いて祈った。―「君が幸せでありますように」―
ついこの間も、似たようなことがあったななんて思いながら。
いつも乗る電車の駅を通り過ぎて、茜はさらに進んでいく。そして、少し人通りの減った住宅街まで来て、やっとその足を止めた。
それがあまりにもいきなりだったもんだから、俺はすぐ近くまで迫っていたその背中にぶつかりそうになって立ち止まった。
「――――茜……?」
茜は、前を見据えたまま、頑なとして俺を振り返らなかった。俺は、そのとき見てはいけない気がして、茜の前に回ってまで、茜の表情を確認しようという気は全く起きなかった。
ただ、その背中が、ひどく泣きそうで、頼りなさそうに見えて。
この間から、茜がこんな風に見えてしまうのは俺の幻想なのかもしれないと思いながらも、俺は。どうしたらいいのか分からなくなってしまった。