君の匂いを抱いて祈った。―「君が幸せでありますように」―

「――まぁ、いいけど。あの子連れて、控え室にはくんなよ」


「了解。
 おれその日の打ち上げには参加できないと思うけど、また茜とタケのお祝いはするよ」


「マジ?」


 茜がきょろっと目を丸くしておれに聞く。おれはただ、うんとだけ返した。

 茜と、タケと。三人で会うなんて、いったい、いつ振りなんだろう?

 それはきっとおれが求めていた『日常』で、茜が欲しがっていた世界でもあったはずだ。


「約束だかんな!今の言葉、絶対忘れんなよっ」


 茜は本当に、嬉しそうに笑った。
 その笑顔は、光みたいだった。
 
 でもそれは、一瞬だけぱっと輝いて、すぐに消えてしまうような、そんな儚い光だ。


 おれの胸を動かすのは、やっぱり茜の笑顔なんだ。悲しい顔は、見たくなかった。
< 243 / 395 >

この作品をシェア

pagetop