君の匂いを抱いて祈った。―「君が幸せでありますように」―

        *


「わあ、美羽ライブハウスって初めて! どうしたらいいの?」


 美羽は薄暗い会場に入るなり、きょろきょろと周囲を見渡し始めた。

 その大きな瞳がきらきらしているのがまるで子どもみたいだった。
 物珍しそうにしている美羽に、ここはワンドリンク制だから、カウンターで飲み物を買うのだと教えてやると、「すごいね」と無邪気に笑った。


「美羽は何がいい? 買ってくるよ」


「あ、じゃあ美羽、カンパリオレンジがいい! ありがとう創」


 にこにことおれを見送る美羽は本当に嬉しそうで良かったと、素直におれはそう思った。

 美羽が悲しそうな顔をしていることがあるとすれば、うぬぼれではなく原因は十中八九おれなんだから。


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