君の匂いを抱いて祈った。―「君が幸せでありますように」―
「創、始まったね」
騒がしいライブハウスで、それでも耳元に口を近づけてこそっと話しかける美羽の声はおれの鼓膜にしっかりと届いた。
美羽はそう言った後は、おれの方を見ずにドキドキとした眼差しをステージに向けた。
次はラスト。『A-Dreams』の出番だった。
半年前、初めてこの会場で演奏が出来るのだとタケが喜んでいたあの頃から、ぐんと認知度、人気が上昇したこのバンドは、トリを務めるまでになっていたのだ。
流れ出したイントロに、きゃあっと湧き上がるのは、女の子の歓声が大半だった。
おれは、タケのことをふっと思った。
「何で、茜から離れるなんて言えるの」おれの目をまっすぐ見つめたまま、そう言ったあの揺るぎ無さが、眩しかった。
あの、夢と希望に溢れた様なきらきらとした瞳は、きっとたくさんの女の子を惹きつける。