君の匂いを抱いて祈った。―「君が幸せでありますように」―

 今までのおれのギターの隣で、おれの横で奏でていた茜の声じゃなかった。

 それは、タケと二人で大切に歌い上げられている。
 バンドのメンバーの演奏にのって流れてくるそれは。

 ――もう、おれのものじゃないんだ。
 ただ、そう思った。

 そこに嫉妬を感じなかったと言ったら、嘘になる。
 でも、嫉妬だとしたら、これは何だというのだろう。

 ただきっと、おれはお気に入りの親友を、タケに取られたみたいで、少しすねているだけに違いない。ここまできても、まだおれはそう思っていたかった。



「……すごい、きれい」


 独り言のように、美羽が呟いたその声は、雑音だらけの中、何故かずるりとおれの耳の中に入った。

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