君の匂いを抱いて祈った。―「君が幸せでありますように」―
「やめろよ、タケっ……」
「やだ。やめない」
それは、最後通告だった。
ここでやめたら、冗談に出来るのかもしれない。
俺はする気はないけれど、茜の中の一線は、越えずにすむのかもしれない。
びく、とひときわ大きく茜の身体が震えた。
「……そう」
それは、茜の祈りだったのかもしれない。
もう縋るものも何も無く、自分の性別すら、捨ててしまった最後の頼みの綱だったのかもしれなかった。
茜のことを、創はなんだって知っているのだ。
茜が今の茜になった瞬間も、昔の幸せだった茜も。
何もかもを知っていて受容しようとしている創は、茜にとっては、自分の存在を確認できる、唯一だったのだろうか。