君の匂いを抱いて祈った。―「君が幸せでありますように」―

 ぽた、と水滴が手の甲に落ちた。

 茜が泣いたのかと思って、茜を見つめると、茜は驚いた顔をして俺を見ていた。
 その瞳には、怯えの色は消えていて、ああ、馬鹿だなとそう思った。

 なんで、こんな状況で、俺のことを心配そうに見るんだよ。

 泣いていたのは俺だった。


 頬を伝う感覚に驚く。ただただ留めなく水滴が流れ落ちる。
 でも、それだけだ。
 なんで、俺は泣いているのだろう。別にどこも、痛くは無い。


「……タケ、お前、」


 茜の指先が、俺の顔に触れた。
 涙をぬぐうように、輪郭をさわる。

 そこから溢れてくるのは愛おしさだった。

< 276 / 395 >

この作品をシェア

pagetop