君の匂いを抱いて祈った。―「君が幸せでありますように」―


「好きなんだ、茜。好きだ」



 そう告げた途端、茜の手が落ちた。

 そのまま一切の抵抗も、怯えも、茜から剥がれ落ちたような瞳で彼女は俺を見た。

 そこにあるのは、ただの無なのか、哀れみなのか諦めなのか。もう俺には到底分かりそうにはなかった。
 


「好きなんだよ、茜……」



 茜は、何も言わなかった。
 


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