君の匂いを抱いて祈った。―「君が幸せでありますように」―

 おれには、もう茜のあとを追いかける権利もないのかもしれない。

 それは、茜ではなく美羽の手をとったあの日から。

 そうなりたいと、願ったのはおれであったはずなのだから。
 だから、タケをうらやましく思うはずなんて、ない。
 そう、だとするとこの気持ちは、ただ、心配なだけだ。

 タケは、眩しいほどに、馬鹿みたいに茜が好きだとまっすぐな瞳でそう言う。

 でも、でもな、タケ。

 茜は、男なんだ。そうなったら、傷つくのは茜なんだ。

 だから、傷つけないでやってくれ。だから、とらないでくれ。

 茜は、おれの『親友』なんだ。

 たった一人、大切な、ずっと傍にいて欲しい、おれの親友なんだ。

 茜を心配する資格ぐらいは、まだおれが持っていても、きっと許される。

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