君の匂いを抱いて祈った。―「君が幸せでありますように」―

「……怒鳴って、ごめん。つい茜が心配で。どうか、した? いまどこにいるの?」


「………そう」


「うん、おれだよ。どうしたの?」


 そう、となんども呼ぶ茜の声が聞こえた。

 初めはかすれるように小さかったそれは、どんどん大きくなって。
 それはまるで、泣けない茜の代わりに、泣きじゃくっているようだった。

 それに応えるようにおれは何度も、茜の名前を口にした。
 大丈夫だよ、おれはここにいるよ。
 そんな台詞の代わりにおれはいつだって、茜の名前を呼び続けてきた。

 違うとすれば、今日は茜を抱きしめてやれないということだけだ。

 

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