君の匂いを抱いて祈った。―「君が幸せでありますように」―

 昔から、茜は精神的に参ってしまったとき、いつだっておれを求めてくれていた。
 必要としてくれていた。
 
 そのたびにおれは、茜の名前を呼んで、大切なぬいぐるみを抱きしめるように、茜を抱きしめた。


 「……ごめん、そう。なんでもないん、だ。あのあと、タケと少し飲んでたんだけど、そしたら悪酔いしたんだ、それだけ」


 おれの名前を口ずさむ時間が途切れてしばらくの沈黙のあと、逃げるように、すらすらと茜はそう言った。

 おれはすぐ嘘だと思った。

 そんなの、茜の声を聞いたら分かる。何年、一緒にいると思ってるんだ。
 それでも、おれは何も言えなかった。
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