君の匂いを抱いて祈った。―「君が幸せでありますように」―
礼もおざなりに、おれは今度は屋上へと向かう。六時間目の始業のベルが鳴ったようで、屋上へと続く階段に、人影はなくて。
その鉄製の扉に手をかけてから、おれは一度深呼吸をする。
自分でも、頭に血が上っていることは、なんとか自覚できている。
一度では足りない気がして、おれはせわしなく空気を吸っては吐いてを繰り返した。
ああ、こんなところにこないで、茜を送ってやればよかったかな、と少し思う。
青白い顔をした茜のことは心配だったけれど、今のおれが追いかけてしまったら、余計傷つけてしまいそうで、怖かった。
それすらも言い訳であると分かっていながら、おれはもう一度息を吐いた。
そして、扉を開ける。空は、いっそ忌々しいほどの晴天だった。