君の匂いを抱いて祈った。―「君が幸せでありますように」―
その瞬間のおれの心境をどうあらわせばいいのか、おれには良く分からない。
ただ苦しいほど呼吸がせわしなくなって、心臓がひどく脈打っていた。
けれど、頭の芯は冷えているような、どこか冷静なような、そんな感覚。
怒鳴りつけようと思った声は、低く平坦なものにしかならなかった。
「………無理やり、抱いたのか」
「―――うん。いや、どうなんだろ。何も言って、くれなかった」
腕で顔を覆っている所為でタケの表情は分からなかったけれど、苦笑している気がした。