君の匂いを抱いて祈った。―「君が幸せでありますように」―
耳元で押し殺すように囁けば、茜は小さく身をすくめた。
そして少しだけ強く、俺の胸を押し返す。
たいした衝撃はなかったけれど、それでも俺は茜から少しだけ身体を離した。
近くで見る茜の瞳ははっきりと俺を映し出していて、その中で俺はひどく不安そうな表情をしていた。
「……しょうがないだろ、おまえなんだから」
困ったように告げる茜の言葉に、胸の奥がつんと痛んだ。
分かってる。それは恋心とか、そんなのじゃなくて、ただ単に茜は大切だった、弟のようだった『俺』を切り捨てられないだけだ。
それでも、だからこそ。
「―――嫌がってよ、茜! そうじゃないと、俺、諦められない。だって、俺は茜が――」