君の匂いを抱いて祈った。―「君が幸せでありますように」―

 その日初めて、茜はゆっくりとされるがままに下ろしていた腕を、俺の背中に回して柔らかく俺を抱きしめた。

 思わず目を閉じて、縋るように俺も茜の細い身体を抱きすくめた。

 このぬくもりもやさしさも、いっそ勘違いできればいいのにと思いながら。
 ここで踏みとどまれと自分自身に強く願う。

 茜を、傷つけたくはないはずで。それだけは本当のはずで。
 でも。


「―――ごめんね、茜。俺なかったことにはきっと、してあげられない」


 カラーの繰り返しで痛んだ茜の髪の毛を撫でながら、それでも俺は告げた。

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