君の匂いを抱いて祈った。―「君が幸せでありますように」―
いつの間にか教卓に立っていた、2年次からの持ち上がりのままの担任の苦笑交じりの声に、茜はわざとらしく肩をすくめて身体を前に向けた。
小さく起こるクラスの笑い声をどこかぼんやりと聞きながら、知らない間に、毛先がだいぶ首筋を覆うようになっていた茜の痛んだ髪を見た。
頑なに髪の毛を伸ばそうとしていなかった茜の姿が思い浮かんで、おれは視線を窓の外へと向けた。
四角く切り取られた窓の先には、校門が見えていて、そこに勢いよく飛び込んできた黒い影が目に留まった。
―――タケ。
新学期早々遅刻かよ。と思いながらタケの頭を見下ろす。
一度もその視線に気付くことなく、タケは校舎の中へと消えていった。