君の匂いを抱いて祈った。―「君が幸せでありますように」―

「……ごめん、ちょっとボーっとしてたら力入れてたみたいだったわ」

「びっくりしたよぉ。手大丈夫?」


 いつもどおりの笑顔を取り繕えば、彼女は安心した顔で、手に触ろうとしてきたのだけれど。


「そう大丈夫か」

「――――――――茜」

「あ、ちょっと切れてんぞ、手。洗い流して来いよ」


 その彼女からひったくるようにして、おれの右手を振り向いた茜が掴んだ。
 そしてまじまじと見つめて、おれの返事も聞かずに担任に退出の許可を求めていた。担任はと言えば、もはや諦めたような苦笑い一つで行って来いと告げていて。

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