君の匂いを抱いて祈った。―「君が幸せでありますように」―
「……髪、伸びてきたね」
「ん、ああ。切りに行くタイミング逃しててさ、なんとなく。変か?」
不安そうに見上げてくる茜の瞳を素直に見返せないことなんて、今まで一度もなかったのに。
今のおれには、それが出来そうになくて、おれは自分の感情が怖くなる。
こうならないために、おれは茜から距離をとった。親友に戻るために。美羽を利用してまで。
なのに、それを壊すことなんて絶対にしたら、駄目だ。
一度茜に見られないように小さく目を閉じて、柔らかな表情を整えた。
もう、自然にそれを造れそうになかった。