君の匂いを抱いて祈った。―「君が幸せでありますように」―
「いや、それはそれでかわいいと思うよ。でも、前の方がかっこいい感じかな」
「そっか! そうにかっこいいって言われたら、なんか照れるけどな」
本当に嬉しそうに笑う茜の表情が、確実におれの胸を刺すんだ、いつだって。
気が付けばおれの口は勝手に「なんで?」と問いかけていた。
茜はきょとんとした顔を一瞬して、それからほころぶように笑った。
「……だって、そうは俺の憧れだから」
じゃーっと、勢いよく掌にかかり続ける水の音だけが頭の中に響いていた。
極力、支えるようにおれの右手を掴む茜の掌の温度を感じないようにするだけが精一杯で。