君の匂いを抱いて祈った。―「君が幸せでありますように」―

 おれは左手で蛇口をひねって水音を消して、そっと添えられていた茜の手を外させた。



「そう?」

「……もう、大丈夫だから」

 困惑しきった顔をしている茜に、それ以上の何をも言えなくて、けれどおれは茜をしっかりと見つめることも出来ずに踵を返した。

「っそう! 俺なんかしたか?」

「なんでもないって」

「でもそうっ……」
 

 ブレザーを引っ張って、おれの足を止めさせた茜を見返せば、茜はしゃべりかけたそのままの表情で顔を強ばらせた。

 ―――だめた。

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