君の匂いを抱いて祈った。―「君が幸せでありますように」―

「…………分かった」


 ブレザーを掴む茜の手を見れば、力を込めすぎたその指先は真っ白になっていて。

 それでも。ぎこちない硬さで茜は手を離した。

 おれはどうしてもそれ以上茜が見れなくて。きっとみたらもっとひどいことを言ってしまいそうで。あるいは、自身の誓いを破りそうで。

 おれはそのまま背を向けた。思えば、茜を振り払ったのなんて、たぶんおれの人生の中で初めてで。

 ずっと。茜と生きてきた。

 ずっと、ずっとだ。
 そしてそれはこれからも。

 隣で。触れ合わなくていい。ただ笑顔が一番近くで見れる位置で、ずっと。茜の隣に居たかったんだ。

 それの何が悪かったんだ。
 



< 385 / 395 >

この作品をシェア

pagetop