君の匂いを抱いて祈った。―「君が幸せでありますように」―
乾いた声が飛び出す。
いなければいいのにと願った姿がそこにはあった。
ひどく青ざめた顔の茜が扉に縋りつくようにして立ち尽くしていたのだ。
おれと目が合うと、茜は身体を震わせた。古い扉がカタカタと音を鳴らし、茜の震えをおれに教える。
何を言っていいのか分からず、誤魔化すようにおれはもう一度、茜の名前を呼んだ。駄目だ。茜が、あれを聞いていたら――。
茜が唇を震わせた。
小さなかすれた声は、なのにはっきりとおれたちのところまで届いてしまう。
「――そう、知って? 知ってたのか」
「茜、落ち着いて」
「知ってたんだろ!? なのに、なんで今までっ……」
茜の瞳がいっそ泣いてくれていればよかった。