君の匂いを抱いて祈った。―「君が幸せでありますように」―

 発作に震える茜の肩に手を置いた途端、その手を振り払うように身をよじられた。
来るな、と荒い呼吸の狭間に茜が言った気がした。

 振り放たれた手の置きようがなくて、おれは茜の前にかがみこんだまま動くことができなくなってしまった。

その横でタケの腕が伸びる。茜と小さいタケの声がしたと思った瞬間、茜の呼吸が少し、弱まった気がして愕然とする。
そのままタケの手がおれが宥めるはずだった肩を掴み、背中に回る。

 
茜の手が、縋るように伸びたのが見えて、おれはもうどうしようもなくて、おれにできることはないのかと、呆然とした。
 

 それは、おれの役目だった。そうだろ? 

 タケの茜を必死に宥める声が耳に入る。大丈夫だから、ね、茜。大丈夫だから。
 

 何が、大丈夫なんだ。
 
 かみ締める唇から、血の味がした。

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