君の匂いを抱いて祈った。―「君が幸せでありますように」―

 ふら、とおれは立ち上がった。
 うずくまる茜と、茜を抱きすくめるタケを極力視界から排除して。
 
 立ち去ろうとしたことに気がついたのだろう、責めるようなタケの視線が突き刺さった。


「……ごめんな、茜」


 空気が止まった。

 落ち着きを見せ始めていた茜はタケの腕の中で、青白い顔をおれに向ける。その唇が何事かを紡ぐのを見たくなくて、おれは扉をくぐった。

 
「―――やだ! そう、待って……」

「創!」


 その声は、確かに聞こえた。
 でも、立ち止まろうとは思えなかった。

 おれと茜との立ち位置は、このとき完璧に崩れ去ってしまった。
 今まで際際の瀬戸際で抵抗をし続けていた砂城は、跡形もなく波に浚われ消えてしまったんだと、どこか遠い思考で思った。

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