君の匂いを抱いて祈った。―「君が幸せでありますように」―


 茜。


 茜、



 逢いたい。誰に? 

 誤魔化すように美羽の顔を思い浮かべて、どうしようもない苛立ちを知る。

 こんなの、駄目だ。わかってる。けれど。

 もう、どうしようもなかった。
 どうにかなる術を、おれは捨て続けているのだから。


 泣き出しそうな茜のおれの名前を呼ぶ声が、おれの鼓膜にこびりついて、しばらく離れそうにはとてもなかった。
  

< 394 / 395 >

この作品をシェア

pagetop