約束のエンゲージリング
あいつなりに新婚である俺らに気を遣ったんだろうと直ぐに分かった。
それがあいつの優しさだと分かっていても、俺は一人暮らしを渋っていた。
何故なら沙羅は千佳が生まれた頃からずっと側にいた存在で、俺の中では2人きりだった家族に更に家族が増えたという感覚だったからだ。
だから俺が結婚したからと千佳が出て行くのは違うと思ったのだ。
普段わがままを言わない千佳がこの時だけは自分の意見を譲らず、平行線を辿っていた。
そんな時、決め手となったのが親友であるマサからの言葉。
子離れする時がきたんだと言われているような気がして、やむ終えず認めた一人暮らし。
でももう一つ、認めたのには理由があった。
マサと同じアパートでの一人暮らし。
もしかしたら同じアパートに住むことによって何かしらの発展があればと思ったのだ。
だが、あれから5年間。
これといった発展はなく、膨れ上がったマサを想う感情がとうとう爆発した。
しかしその想いにマサが応える事はなく、妹の長い長い片思いは終わったかに見えた。
マサのあんな表情を見せられたら、千佳でさえ自分の中でケジメをつけて〝妹〟として過ごしているのに俺が諦めきれない。