約束のエンゲージリング
「ごめんなさい、、。」
小さく謝罪してみたものの、我慢できずに零した私の涙を見て、彼はハッとした表情をしてそれから突然強く抱き寄せられた。
幼い頃、私が兄に怒られ泣き出すとよくこうやって抱きしめてくれた。
大きい身体にスッポリと収まるように抱きしめられると何故か自然と安心できた。
そして直ぐに涙は止まった。
いつからだったか彼は私を安易に抱きしめる事はなくなり、言葉や態度はあの頃から変わらずとても優しいのにどこか一線距離を置くようになっていた。
だからこうやって抱きしめられたのはもう随分と前の事で、あの頃とは違って正直この状況に戸惑ってしまう。
「マサさん、、どうしたの、、、?」
無言の彼に戸惑い気味に声を掛けると抱きしめる腕が強まり柔らかい声が耳に響く。
『ごめん。泣かせたかったわけじゃないんだ。ただあまりにも千佳が無防備だから腹が立って強い言い方になってごめん。、、本当に心配なんだよ。本館には酔っ払いだって多いから行かせたくない。だから千佳はここを使って。』
密着していた体が少し離れ、突然顔を上に向かされる。
目が合った彼の瞳は切なそうに揺れていて、それに痛いくらいに胸が締め付けられる。