約束のエンゲージリング
「いらっしゃいませ。」
「岩田さん、こんにちわ〜。また花束の注文いいですか?この前の送別会用の花束が凄く評判で!!貰った子なんて〝こんな素敵な花束貰うの初めて〜!〟とか言って大泣きで。やっぱり花は良いよね。花貰って嫌な思いする奴なんていないもん。なんか嫌な事あっても花で和むっていうか。」
「そう言って頂けると嬉しいです。」
最近、よく顔を見かける常連の男性が来店し、嬉しい言葉を貰う。
私も花屋さんになったキッカケはまさにそれで、学校の帰り道にあったこのフラワーショップ牧野。
嫌なことがあって俯きながら帰宅していると、必ずと言っていいほど彼が一輪の花を手渡してくれて優しい笑顔で〝おかえり〟と迎え入れてくれた。
それがどんなに嬉しかったか。
花のいい香りを嗅ぐとモヤモヤしていたものが一瞬で吹き飛んで、貰った花を小さな花瓶に入れてそれを眺めるだけでとても和んだ。
兄の帰りが遅い日はお店の椅子に座り、彼の接客している姿を眺めていた。
浮かない顔をして来店したお客様が花のストッカーを覗くと一瞬で広角が上がって表情が穏やかになる。
そして花を抱えて帰るその横顔は笑顔になっていて見ているこっちが嬉しくなった。