約束のエンゲージリング
去り際に私の頭に手を置いて目を細めて微笑みながら背を向けた彼。
男性客同様にその優しい笑みにやられ、仕事中だというのにボンヤリしてしまう。
気づけば彼は接客を始めていて、その姿をみて足を引っ張らないようにと急いでテーブル花を作り始めた。
花材をストッカーから取り出し、オアシスに花を生けていく。
ホテルのテーブル花はどの方向からも綺麗に見えるオールラウド型で私の得意のアレンジメントだ。
時間も忘れアレンジ作りに没頭していると目を前に缶コーヒーが置かれた。
顔を上げると困った表情を浮かべる彼。
『お疲れ様。就業時刻はとっくに過ぎてるよ。本当、千佳はアレンジ作り始めると没頭しちゃうね。それ、明日の夕方配送の分だったから急ぎじゃなかったんだけどね。あといくつ?』
「え?!?!もうそんな時間っ、、?!ごめんなさい!片付けもせずにっ、、!これで最後だったの!!本当にごめんなさい!!!」
『さすが!集中してる千佳は仕事も丁寧な上に早いね。おかげで明日は午前中は店は閉められそうだよ。それまで仕上げちゃってよ。そしたら俺も朝一から引っ越し手伝えるし、、ね?』