約束のエンゲージリング
英字の包装紙で簡単に包んでいると作業場の方から音が聞こえた。
彼が配達から帰ってきたようだ。
包みながら視線を作業場の方に向けると、直ぐに彼の優しい視線と交わる。
それだけで胸があったかくなる。
『岩田さん、店番お疲れ様。っと、、接客中だったかな?いらしゃいまっ、、っ、、。』
微笑みながら店内へと入ってきた彼が私の手元を見て接客中だと気付き、顔を引き締めて来店しているその女性に声を掛けようと視線を向けた瞬間、言葉が止まった。
暫く無言でその女性と見つめ合い、ふわりと微笑んだ女性が彼に声を掛けた。
「久しぶりだね、、、正巳。」
その言葉に彼が息を飲むのが分かった。
『千尋さん、、、?』
彼の表情からは感情は読み取れないが、この2人の間に流れる空気感が2人の過去の関係を物語っている。
このヒトはきっと、彼の最愛だったヒト。
彼が唯一愛し、結婚を考えていた女性。
そして彼を酷く傷つけ、決して治る事のない深い傷を残したヒト。
ふと女性の左手に視線を向けると、そこにある筈の指輪が無いことに気付く。