約束のエンゲージリング


ムキになってその引き出しを力一杯引っ張ると引っかかっていたものが外れその正体が姿を現わす。




それは皮肉にも彼女を連想させるもので約10年ぶりに見たその小さな箱は役目を果たされる事なく少し埃が被っている。

その埃を手で払って中を開けると、中身はあの頃と変わらずキラキラと輝いている。










渡す事も捨てる事も出来なかった約束のエンゲージリング。



それを無言で見つめていると携帯が鳴った。

慌ててポケットから携帯を取り出し耳に当たる。







『もしもしっ、、! ?、、っ無事でよかった。今どこに?!そう、、分かった。ありがとう孝。迷惑かけて本当にごめん。じゃあ、、また。』





電話の相手は勿論、親友であれから直ぐに彼女と無事連絡がとれたという内容だった。

何でもビジネスホテルにいるらしく、出張の件を伝えると体調不良で何も言わずに早期退社してしまった事を謝っておいて欲しいとの事だった。


少し体調が戻ったらしく、明日からはちゃんと出勤するので留守番は任せて欲しいという伝言も預かったらしい。






安否の確認ができ、ほっと胸をなで下ろすと同時に彼女の体調の悪さに気づく事も出来なかった自分の不甲斐なさに怒りさえ覚える。


こんな自分が本当に彼女の事を大事にしてきたと言えるのか、、、?








ふと机に置きっ放しにしていたあの指輪が目に入って、咄嗟に目を逸らす。





一度携帯を確認してみたが、彼女からの着信はない。

そのまま近くにあったソファーに身体を預け目を閉じた。





目を閉じると最後に見た彼女の表情が脳内に焼き付いて離れない。






結局一睡も出来ず、胸の痛みから逃げるようにそのまま部屋を出て空港に向かったのだった。


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