約束のエンゲージリング
あの頃は渡す事が出来なかったエンゲージリングも今ならばそれを堂々と手渡す事が出来る。
愛しい彼女はもう誰のものでもなく、私とさえ別れれば彼も誰のものでもない。
何もかもが上手くいく。
これでようやく幸せになれるのだ。
沢山泣いたお陰で何故だか涙は出なくて、ちゃんと現実を受け止めているのだと分かった。
勿論、彼の事は好きで離れたくないけれどあんな風に2人が想いあっているのを見てこの指輪の存在知れば、潔く身を引くしかないのだ。
明後日には戻ってくる彼。
別れは早い方がいい。
きっと彼の事だ。
こっちに戻ってきた夜には、沖縄土産を持って会いに来てくれるに違いない。
この時にこの指輪を勝手に持ち出してしまった事を謝って、それからこれをちゃんと手渡してその場で笑顔で別れを告げよう。
もし彼が躊躇するのならば、その時は私が彼の背中を押すんだ。
今まで貰ってきた沢山の愛情の感謝を込めて。
そうと決まれば立ち上がり、それを入れていく為の小さな紙袋を準備してリングケースをその中に丁寧に入れた。
よしっと小さく意気込んで、寝る準備をして直ぐに布団に入った。
目を瞑ると直ぐに眠気に襲われて夢の中へ。
その夜は、懐かしい夢を見た。
保育園に残業になってしまった兄の代わりに彼が迎えに来てくれた日の事。
それはとても幸せな夢の約束。