約束のエンゲージリング
顔を上げると当然、お客様の姿は遥かに遠くにあってホッと胸を撫で下ろす。
『、、、岩田さん。』
背後から低い声で彼から呼ばれたが、そんな呼び方じゃ絶対に振り向かない。
そう心に決めて無視を決め込んだ。
私の強い意志が伝わったのが、盛大なため息をついた彼。
『、、、〝千佳〟こっち向きなさい。』
ようやく名前を呼ばれ、仕方なく振り返る。
目が合った彼は困ったような呆れたような表情をしていて、それが悲しくて目を逸らした。
『千佳、何度も言ってるけど仕事中は〝店長〟って呼びなさい。それと敬語ね?あと人が接客してるのに割り込んでこない。あのお客様、絶対勘違いしたでしょ。』
「マサさんはマサさんだから呼び方変えるとか無理。それに敬語も!!ちゃんとお客様には敬語使ってるからいいでしょ?それにマサさんの接客長いっ!マサさんがお店に立つとお客様が渋滞起こすの!!それにマサさんが少し困ってるように見えたから、、だから助けに入ってあげたんです!!!」
『そう、、かもしれないけど、、、。』
「はいっ!!もうお説教はお終い!!!ほらっ、マサさん本当に時間。あとの予約の分は私がしておくから。マサさんはお客様の準備して?コーヒーの準備はしてあるから。」