約束のエンゲージリング


そういって背中を無理やり押して店内から追い出す。






『あ、本当だ。もうこんな時間か。、、〝岩田さん〟コーヒー助かるよ、ありがとう。じゃあ後は宜しくね。』



腕時計を確認した彼は慌てて奥の客間へと向かい、去り際に笑顔で言葉を掛けてきた。

呼び方がまた仕事仕様に戻っている事に不服に思いながらもいつもの優しい笑顔を向けられたら素直に頷くことしかできない。












「わかりました〝店長〟お任せ下さい。」






そういって視線を外して俯きながら答えた。


すると目の前に気配を感じて何事かと顔を上げようとすると頭に大きな手の温もりを感じた。











『優しい気配りにはいつも助けられてるよ。ありがとね。〝千佳〟が店番すると変な輩もよく来るから何かあったら直ぐに声を掛けて?来客中でも構わないから。』





それが愛しい彼の大きな手だと分かって、沈んでいた気持ちが一気に浮上する。

本当に、、、ズルイ人だ。




私なんて女として見てもらえないし、なんとも思ってないのにこうして無意識に飴と鞭を上手い具合に使って私の心を離さない。














今も昔もずっと私の好きな人。




嫌いになれたら楽なのに、それが出来ないからこんなにも苦しいんだ。


私だけがいつも翻弄されて、、それが悔して、せめて最後に睨みつけてやろうと勢い良く顔を上げると愛しの彼の姿はもうそこにはない。



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