約束のエンゲージリング
覚えているのは、私がもうアタックを仕掛けたという事くらいだ。
ストーカーばりに彼を追いかけ、半ば強引に勝ち取った〝彼女〟というポジション。
付き合いだして暫くして、彼に15歳も歳の離れた妹が出来た。
それが千佳だ。
普段、あんなにぶっきら棒で彼女である私にも笑うことが少ない彼が〝妹が産まれた〟ととても優しい表情で教えてくれた時には少し嫉妬したくらいだ。
独りっ子だった彼に出来た始めての兄妹。
嬉しかったに違いない。
少し嫉妬めいた気持ちで会いに行った妹の可愛さに、一瞬で毒が抜かれた。
彼の母親にそっくりで何処と無く彼にも似ている天使に虜になった。
一時期は彼と会うことよりも彼女の成長が楽しみで、あの純粋な笑顔に癒されたくて随分と通った。
歩き始めて、言葉が出始めて、会話が成り立つようになった1番可愛い時期に、、、悲劇は起こった。
天使を産んで少しずつ弱っていくおばさんだったが、とうとう可愛い子供を2人残して愛しの旦那さんの事に行ってしまった。
葬儀の日。
彼は涙を流す事もなく、この日が来るのが分かっていたかのような立ち振る舞いでとても大人に見えた。
きっとあれは決意の表れ。