約束のエンゲージリング
前もって大人っぽいメイクを沙羅姉に習っていて、それを披露する時がやってきた。
少し時間が掛かりながらも丁寧にメイクを施していく。
そして最後に仕事では絶対につけない薄ピンクの口紅、頬に控えめにチークを乗せて完成だ。
昨日買って貰った服を身につけて、全身をくまなくチェックする。
普段とは全く違う自分の姿に恥ずかしさもあったが、いつもより年齢が上に見えて少し彼に近づけた気がした。
最後に鏡に向かって笑顔のチェック。
いつも通り、歯を見せてニッコリと。
今日は最後まで絶対に涙を見せない。
そして最高の思い出を作る。
目を閉じて、自分に言い聞かせる。
深めに深呼吸をして立ち上がろうとすると、チャイムが鳴った。
バックを持って、パンプスを履いてドアを開ける。
「お迎えありがと。マサさん!ちゃんと準備して待ってたよ。」
抱きつきそうになる衝動を抑えて、笑顔で彼に笑いかけると目を見開いた彼がそこに居た。
言葉もなく驚きの表情を浮かべるだけでこちらも困ってしまう。
確かに普段とは別人で驚くかなっとは予想していたけど、言葉を失うほどだとは思っていなかった。
こうも反応がないと虚しい。
恥ずかしかったが仕方なく、くるりと一周してスカートの端を持って声を掛けた。
「ど、どうかなっ!?今日で25歳になったし少し大人になったでしょ?だからたまにはこういう格好もしてみようかなって思っててね?意外と似合ってるでしょ〜〜〜。」
そう言って顔を傾げると彼の手が伸びてきてスカートの端を持っていた手を払われた。
驚いて彼を見上げると目を細めて呟いた。
『千佳はもう大人だよ。だからそんな、、スカートの裾を上げるような事したら駄目でしょ。俺だったから良かったものの。』
「ごめんなさい。はしたなかったよね。」
『違う。そういう事じゃないよ。』