約束のエンゲージリング
母親が他界した時、丁度高校の卒業を控えていた兄は突然進路を就職に変えた。
幼い私にはその時、必死に机に向かっていた兄が急にそれを辞めた事を理解出来なかったけど今なら分かる。
兄は自分の夢を捨てて、私を養う事を優先したんだって事。
就職先も家から近いところで、土日完全に休みの仕事だった。
だから私が学生の間も休みの日は一緒に過ごしてくれて、学校行事には必ず駆けつけてくれた。
きっと兄がやりたい事は他にもあったのに、いつだって私を優先してくれた兄。
厳しい兄だったけれども、いつだって私の事を1番に考えてくれた。
そんな兄とは正反対で私にすこぶる甘かったのが、、、彼だ。
兄に怒られれば1番に庇ってくれ、兄が忙しい時はいつだって側にいてくれた存在。
そんな彼という存在が側にいた24年間を過ごしてきた私が彼を好きにならない訳がない。
一方兄は今では家族が増え、ようやく自分の幸せを謳歌している。
今まで沢山我慢させてしまった分、幸せな時間を過ごして欲しいと心から願っている。
そんな兄の子供で私の姪っ子ちゃんである由羅ちゃんもうすぐで5歳の誕生日を迎える。
今度の休みの日にプレゼントを買いに行こうとぼんやり考えていると店の自動ドアが開いた。
咄嗟に笑顔を浮かべドアの方に声を掛けた。
「いらっしゃいま、、あ!孝兄!!!どうしたの?!」
これまた彼と一緒で今年で40歳には見えない兄、岩田 孝之が突然店内に入ってきてつい驚いて声を上げた。
決してブラコンではないが、誰もが認めるほどのイケメンですれ違った女子達が振り返ってみるほどだ。
彼と違って少し冷たい印象のある兄だが、それがまたクールでカッコいいと女子のハートを鷲掴みするのだとか。
「たまたま通りかかった花屋にぼけっとした店員が見えたから注意しに寄ってみたんだよ。」
「ちょっと考え事してただけですー。」
膨れっ面で視線を逸らすと、作業場を覗いた兄が呟く。
「、、マサは?」