約束のエンゲージリング


「あぁ、沙羅に頼んでおく。それと職場では今まで通りに接してやれよ。あいつも今頃お前がこうやって自己嫌悪に陥ってると分かってるだろうからな。」

『、、、そうだね。』

「お前が今日の事を引きずってそんなしけたツラしてたらいつまで経っても気にするだろうからな。お前みたいに、、前に進む事さえできなくなるかもしれない。」












その〝前に進む〟という孝の言葉にピクリと反応してしまう。

失恋したら次の恋に向かう。




千佳が自分に抱いた感情はいつか過去のものになって新たに他の男に抱くのだと思うと、何故か胸の奥からドス黒いものが流れる。


25年間、ずっと妹として接してきた女の子。






その成長が父親のように嬉しくて、兄のように見守ってきた。

慕ってくれるその想いも純粋に嬉しかった。


でも孝が言うように薄々気づいていたのかもしれない。









彼女が自分に向ける感情が、兄妹に向けるものではないと。


それでも必死に勘違いだと思い込ませてきた。








その結果がずっと純粋無垢な少女を傷つけていたのだと分かって胸が痛む。

それだけ長い間傷つけておいて、40前のいい歳した大人が明日からどんな顔をして会えばいいかも分からない。

それなのに25歳になった彼女の取った行動はあまりにも大人だった。





いつも〝マサさん〟と呼ぶ彼女が〝マサ兄〟と呼び変え、更に笑顔を見せた。

それも満面の笑顔。



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